【将棋月例会】小6の弟子に丸裸にされた日――AI研究がもたらす大局観の学び

将棋

久しぶりに将棋の話題!高山月例会と激闘の振り返り

今日は久しぶりに将棋の話題を取り上げます。というのも、今日と次回記事は内容が非常に盛りだくさんで、中身の濃いものになっているからです。そのため、将棋が好きな方や興味のある方は、ぜひ最後までお付き合いいただければ幸いです。

8月30日には、高山市民文化会館で開催された恒例の将棋月例会に参加してきました。

今回の参加人数はA級が8名、B級が4名でした。前回の参加者はA級4名、B級2名でしたので、いつもの人数よりも若干多く感じられました。

結果につきましては、出だしこそ2連勝と非常に好調でした。しかし、後半に2連敗を喫してしまい、最終的には2勝2敗の指し分けで3位という結果に終わりました。

  • A級優勝:佐藤弘道さん(3勝1敗)
  • A級準優勝:白川瑞樹さん(3勝1敗)
  • B級優勝:清水心結さん(3戦全勝)

大会後には、今回の成績上位者とともに、前回の西日本大会で見事3位に輝いた子供たち2人へ表彰状が贈られました。

私個人としては、勿論優勝を狙っていたため、この結果自体には満足していません。しかしながら、今回の対局を通して非常に大きな収穫を得ることができました。

高山月例会の対局レポート

勢いのある若手強豪たちとの対局

今回対戦した4人は、いずれも勢いのある若手ばかりでした。

  • 第1局:鈴木勇大さん 大会の常連であり、本当に将棋がお好きで精通されている方です。一筋縄ではいかない相手でしたが、何とか相手の居飛車穴熊を攻略して勝ち切ることができました。
  • 第2局:金子寛さん 30歳そこそこの正に指し盛りといったご様子で、見るからに頭の良さそうな方でした。案の定、接戦となりましたが、粘りの末に何とか勝利を収めました。対局後にお話ししたところ、元々は岐阜市住まいで、仕事の都合により高山に転勤されてきたとのことです。さらに、現・飛騨地区名人位の野崎竜成さんとは勤務先(飛騨総合庁舎)の同僚だそうで、非常に気さくな方でした。このように若い方が参加してくれることは、飛騨地区の将棋界にとっても実に喜ばしいことです。
  • 第3局:白川瑞樹さん 金子さん同様、30歳くらいの若手強豪です。お住まいは高山市内で、ここ5年ほど将棋から離れていたものの、最近になって再開されたとのことでした。将棋の内容は、終盤、相手玉に即詰みがあったのですが、自玉に詰みがないと思い込み必至をかけたところ、実は自玉には長手数の詰み筋があり、逆に自玉が詰まされてしまいました。結果は敗戦となりましたが、感想戦でお話しした際も気さくで、とても好印象な方でした。

【ハイライト】弟子・相田蒼太君との師弟対決

そして最後に当たったのが、個人レッスンで教えている相田蒼太君(小学6年生)です。

対局前、進行係の平野さんから手合いを読み上げられた際に「師弟対決頑張ってください」と言われました。その瞬間、「師匠であるこの私めが負けるわけにはいかない」と闘志がメラメラと湧いてきました。そこで、実りあるこの対局を、今回のハイライトとして詳しく解説していきます。

飛車交換と驚愕の「☗7五歩」

下図は、私が8筋の歩を交換し、☗8六飛と飛車交換を迫った局面です。盤面を見渡すと、自陣には飛車を打ち込む隙がなく、対照的に相手陣は飛車の打ち込みに弱い陣形をしています。

【初手から上図に至るまでの手順】☗7六歩 ☖8四歩 ☗7八銀 ☖3四歩 ☗6六歩 ☖8五歩 ☗7七角 ☖6二銀 ☗6七銀 ☖7四歩 ☗8八飛 ☖4二玉 ☗7八金 ☖3二玉 ☗4八玉 ☖5二金 ☗3八玉 ☖1四歩 ☗4八銀 ☖6四歩 ☗5九金 ☖7三桂 ☗8六歩 ☖同歩 ☗同飛

この局面では、通常であれば飛車交換を避けて「☖8五歩」と打つのが常道です。ところが、蒼太君はすでに計算が立っていたのか、思い切りよく飛車交換に応じました。

さらに、その後に角成りを迫る「☖6五歩」を突き、先手が「☗7七角」と引いたのが下図です。

この角引きまでは比較的よくある局面ですが、この直後に全く予期していなかった驚愕の一手が飛び出しました。通常であれば角取りに「☖8五桂」と跳ねるか、「☖6六歩」と取り込みます。しかし、蒼太君が指したのは、一見すると緩そうに見える角頭を攻める「☖7五歩」でした(下図)。

今まで何千局と向かい飛車で対戦してきましたが、相手にこう指されたのは記憶にありません。実は、私自身はこの手が存在することを知っていました。なぜなら以前、局後の研究過程で類似局面を将棋AI「水匠5」に解析させた際、AIが提示した最善手が正しくこの☖7五歩だったのです。

「ようやった小童!」完敗から見えた成長

驚きのあまり「すごい手を知っているね」と思わず声をかけると、彼は「昨夜、研究してきましたから」と涼しい顔で答えました。

その後、私は長考に沈むことになります。しかし、どう指しても良くならず、仕方なく☗6五歩と角交換を試みました。だが、その直後の☖7七角成☗同桂の次に指された銀頭の「☖6六歩」(下図)が、強烈過ぎました。この手が飛んで来ることは分かっていましたが、防ぐ術がありません。

取る一手に対して桂取りの「☖7六歩」と進む5手一組の組み合わせが絶妙で、こちらの桂損が必至となってしまったのです。

対局後、彼に詳しくこの一手に付いての話を聞くと、前夜に私の戦法を「水匠5」を使って1時間以上かけて研究し、この結論に辿り着いたとのことでした。確か評価値で800点もの大差が付いたとも言っていました。したがって、この手を境界線として形勢は一気に傾き、この後は一方的に攻められて、見事に負かされてしまいました。

まだ小学6年生の小童に自分の将棋が丸裸にされていたとは、恐ろしい限りです。大河ドラマの真田昌幸になりきって「黙れ小童!」と叫ぶどころか、「ようやった小童!!」と頭を軽く撫でてあげたい気分になりました。一体これからどんな大怪物に化けるのか、本当に楽しみです。

ただ……! たった一つだけ、師匠として言わせてほしい残念なポイントがあります。今回、蒼太君の成績は2勝2敗でしたが、負けたうちの1局は、ライバルである同じ小学生の下町君相手に「二歩」を指して撃沈したとのこと。

師匠の優しさは通用しない?ライバル対決でまさかの「二歩」

……おいおい蒼太君、二歩を指すのはこれが初めてじゃないよね?(笑) かつて私との月例会での公式の場でも豪快に二歩を指した際、私は「師匠の圧倒的な海より広い優しさ」で見逃してあげました。しかし! 今回はバチバチのライバル下町君です。そんな甘い仏心が通用するはずもなく、容赦なく反則負けの引導を渡されてしまいました。

頼むから、研究だけでなく「二歩のチェック」も怠らないでおくれ(笑)。

将棋AIの底知れぬ強さと「大局観」の教訓

AIが教えてくれた驚愕の手「☗7七銀」

今回の件に関連して、将棋AIの底知れぬ強さについて感じたことをお話しします。現在、私は「技巧2」との飛車落ちを中心に練習しています。ある日の出来事です。下図の局面になり、最善手が全く思い浮かばなくなってしまいました。そこで、最強AI「水匠5」に教えを請うてみることにしたのです。

【初手から上図に至るまでの手順】 ☖6二玉 ☗7六歩 ☖7二玉 ☗2六歩 ☖3四歩 ☗2五歩 ☖3二金 ☗2四歩 ☖同歩 ☗同飛 ☖8八角成 ☗同銀 ☖2二銀 ☗2八飛 ☖2七歩 ☗6八飛 ☖6五角 ☗3八金 ☖7六角 ☗2七金 ☖6五角 ☗4八玉 ☖5四角 ☗3八玉 ☖3三銀 ☗4八銀 ☖4四銀

すると、返ってきた答えは遊んでいる銀を活用する「☗7七銀」という驚愕の一手でした(下図A参照)。

確かに銀は活用できますが、その代わりに角に成られてしまいます。そのため、人間の感覚であれば「角を成られて先手悪し」と真っ先にその時点で読むのを打ち切ってしまう手です。

しかし、角が成った後の展開を深く読み進めると、その角の行き場が限定されており、続く「☗7六歩」で角が捕まっていることが分かります(下図B)。

この後、たとえ上手が暴れてきたとしても、落ち着いて対処すれば下手が有利になります。この後の予想展開を記します。☖2六歩☗同金☖2八歩☗同玉☖6九馬☗同飛☖5八金で下図へ移行。

一見すると☖5八金の両取りで先手が困っている様にも見えますが、この後下手が☗6八飛とすると単なる飛車金交換に終わり、下図においては下手有利が明白です。上手の持ち駒が飛車1枚では手の作りようがありません。それに対し、下手には指したい手が山ほどあります。ここまで読んで指すことができれば、大局観に優れていると言えるのです。もっとも水匠5が推薦する最善手は図Bの☗7六歩ではなく、成った直後にあっさりと☗7六角と角交換を迫るものでしたが、どちらを選択しても下手有利に変わりありません。

自分に欠けていた「全体を見渡す目」

このように、最初から「角を成らせても充分に戦える」という発想自体が抜けていたことが大きな問題でした。そして、これこそが「大局観」の差なのだと痛感しました。

なぜなら、大局観が優れていれば、数手先まで正しく見通して結論を出すことができるからです。

応用問題:AIが示した驚愕の「☗4六歩」

実は、この数手先にも同様の局面が生じました。まさに「大局観」を試される応用問題です。図が4つ上の図Aの局面から、上手も☖8七角成がうまく行かないと察知して☖3三桂と跳ねてきました。そして、8筋を守った☗8八飛に☖4五角と出たのが下図です。

ここでどう指すべきか。相手は「角を成らせてくれますか」と聞いています。人間の感覚なら、ここで角を成らす訳にはいかない。まずはそこから考えるのが一般的でしょう。

ところが、「水匠5」の回答は実にぶったまげていました。なんと「どうぞお好きな様に成ってください。」と「☗4六歩」で角成りを催促したのです(下図)。

そして、角が成った後、☗8六歩☖3五歩と進みます。この☗8六歩が重要な一手です。この手の持つ意味は馬を☖8五馬もしくは☖9四馬と上部に逃がさないためです。そして☖3五歩も角の退路を作るために必然です。そこまで指してから、下手が最初の読み筋であった下図の☗5六角が飛んで来ます。

一見すると損に見えて得を取る「大局観」の真髄

そして、ここからが重要なポイントです。

上図の☖3五歩☗5六角の後に☖同馬☗同歩と進展し、下図の一段落した最終局面をよく見比べると、下手側は手順に☗4六歩☗8六歩☗5六歩と歩が3手も進んでいるのに対し、上手側は☖3五歩と歩が一つ進んだだけです。ただし、この歩が進んだことにより、かえって桂頭にぽっかり穴が開き、ここがキズになるので藪蛇になりかねません。つまりAIはここまで読み切り、「角を成らせた方が得だ」と判断したわけです。

これこそが「大局観」の本質です。恐ろしいほど冷静で緻密な判断をしています。

今回のAIによる指導対局を通し、自分に欠けていた「盤面全体を長期的に見渡す大局観」を少なからず深めることができたのではないかと思います。

【まとめ】将棋における「大局観」とは何か

目先の損得にとらわれない柔軟な思考

「角を成られる=悪手」という目先の恐怖や固定観念を捨てることが重要です。局所の被害を恐れず、陣形全体の安全度や効率を優先する柔軟性が求められます。

数手先の「盤面全体の充実度」を比較する目

大局観の本質は、目前の駒の損得ではなく、数手進んだ後の「お互いの陣形の充実度」を冷静に比べることにあります。一見すると損に見えても、結果的に自分の手が伸びる展開を見極めることが大切です。

相手の攻めを逆利用する構想力

あえて相手の狙いを通させることで、結果的に相手の形を乱したり、隙を生み出したりもできます。相手の攻め手を逆手にとり、主導権を握り直す構想力が勝利へと繋がります。

大局観を磨き、次なるステップへ

将棋における大局観とは、単に先の展開を読む力だけではありません。「目前の駒の損得を超えて、未来の盤面全体を正しく評価する視点」のことだと学びました。

この視点を持つことで、一見すると無謀に見える手が、実は勝利への最善手へと変わるのです。

これからもAIという心強い相棒とともに、この「大局観」をさらに磨いていきたいと思います。

さて、次回は「AIを使った自分の学習法の深淵」について触れていくことにしましょう。どうぞお楽しみに!

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