私は将棋を単なる趣味や娯楽とは考えていません。将棋は「己の脳力を磨き上げるための道標」であり、年齢に関係なく成長できることを証明する挑戦でもあります。そのため、私はネット将棋や気軽な対局を封印し、将棋ソフトを活用した独自の鍛錬法を日々実践しています。本記事では、その具体的な取り組みについて紹介します。
将棋ソフトとの対局を選ぶ理由
将棋は、ただ楽しいから指している──そう思われることもありますが、私にとっては少し違います。将棋は、己の限界を打ち破るための道。年齢とともに衰えるといわれる脳の力を、あえて鍛え直すことによって証明してみせたい。
そのため私は、一般的な「ネット対局」や勝敗を楽しむ将棋から距離を置き、AIとの地道な対局と局面研究に重きを置いた“修行”を実践しています。本記事では、その具体的な取り組みと想いを詳しくご紹介します。
将棋を「勝ち負け」ではなく「鍛錬」として捉える理由
多くの人が将棋を楽しむ中で、ネット将棋は気軽に対局でき、段級やポイントの変動に一喜一憂する要素もあり、とても人気です。確かに、私も過去にはネット将棋を毎日のように指していた時期がありました。特に段位を目指して勝ち進む過程は、非常にモチベーションにもなります。
しかし今の私は違います。「強くなる」ことそのものが目的であり、「娯楽」や「楽しさ」を求めているのではないのです。年齢を重ねてもなお、思考力・判断力・構想力といった脳の働きは衰えない。そう信じているからこそ、将棋は鍛錬の道具であり、自らの能力を証明するための手段として向き合っているのです。
私が選んだ「AI修行」の4つの方法
現在、私は将棋ソフトを使って、以下の4つの方法で毎日実力を磨いています。それぞれに目的があり、段階的な強化ができるよう設計されています。

1.水匠5との「二枚落ち」対局──徹底的に勝ち切る練習
最初の段階として取り入れているのが、水匠5との二枚落ちでの駒落ち対局です。相手は最強クラスのAIソフトであり、人間では到底思いつかないような手筋も繰り出してきます。
- 利点:
- たとえば、相手が穴熊囲いを構築してくる場面では、その攻略法がとにかく秀逸。特に端攻めや銀の捌き方など、目から鱗のような手順を学ぶことができます。
- 接近戦になると、AIは常に最善手を選ぶため、自分の指し手との差異がはっきりと浮き彫りになります。そこから得られる「気づき」は、どんな書籍や講義にも勝る学びです。
- 局面ごとに「待った」ができるため、不利になった場面を何度もやり直し、最適な手順を体で覚えるまで繰り返すことが可能です。
- 課題:
- 四段クラスであっても、二枚落ちで指すことに多少なりとも「恥ずかしさ」や自己嫌悪感が芽生えることもあります。ですがこれは一時的なものにすぎず、早くこの段階を卒業することが当面の目標です。
2.飛車落ちでの本格戦──トップアマへの挑戦意識
次のステップは、水匠5との「飛車落ち」対局。これは私にとって非常に大きな挑戦であり、まさにAIとの真剣勝負です。
- 利点:
- 私の見立てでは、最強のAIとトップアマチュアの実力差は飛車落ち相当。だからこそ、ここで勝てるようになれば、自分がそのレベルに近づいていることになる。そう考えるだけでモチベーションが上がります。
- 評価値や読み筋が表示されるので、自分の手がどれだけ正確か客観的にわかります。評価値がマイナスであればその手は明確な悪手。数字で示されるからこそ、誤魔化しが効きません。
- あらゆる戦型に挑戦できるのも大きな利点です。振り飛車、美濃囲い、穴熊、居飛車──苦手な戦型もあえて選んで指すことで、全体的なバランスを鍛えられます。
- 課題:
- 何十回と「待った」をしてもなお勝てないことがあり、精神的には辛い時間もあります。それでも、将棋は地道な積み重ね。ここであきらめては意味がないと自分に言い聞かせています。

3.指定局面からの解析──敗因を潰す緻密な作業
AIソフトの大きな魅力の一つが、局面を指定して解析ができる点です。これは大会や研究用として極めて有効です。
- 実戦で負けた対局には、必ずと言っていいほど敗着や誤算があります。そこをピンポイントで指定して、「このときの最善手は何か?」をAIに問うことで、次に同じミスを繰り返さない準備ができます。
- また、指定局面からAI同士を対局させてみることも可能。画面を眺めながら最善手の応酬を見ることで、自分では考えつかなかった構想に触れられるのです。
4.アプリ「AI将棋ZERO」での段級戦
最後に紹介するのが、スマートフォンアプリ「AI将棋にゼロ」での対局です。ここでは、級位者から九段までのAIと自由に対局でき、気軽に実力測定ができます。
- 現在は七段のAIと対局中。六段までは勝ち越せましたが、七段からは壁が厚く、待ったなしでの勝率は約2割にとどまっています。
- ここでの目標は、「五分の勝率」に達すること。それが今の自分にとって明確な通過点です。

将棋は「生涯をかけて向き合う学び」
私は、将棋を通じて「年齢による限界」という常識を破りたいと思っています。
それは単に将棋が強くなりたいという欲求ではなく、**「脳は年を取っても鍛えられる」**ということを、自分の体を使って証明してみたいからです。
ソフトとの対局は孤独で、苦しい時もあります。ネット将棋のような気軽さもありませんし、勝っても誰かに賞賛されるわけでもありません。それでも、確かな実力を得るためにはこの道しかない。
自分自身の「限界突破の記録」として、これからもAI将棋と真摯に向き合っていくつもりです。
