脳を鍛え、将棋で飛躍する

年齢とともに変わる脳、その中で将棋を指し続ける理由

今、私が将棋に取り組んでいる最大の理由は、脳の劣化と将棋の実力がどの程度関係しているのかを、自分自身で確かめたいからだ。
年齢を重ねる中で、記憶力や判断力、集中力がどんなふうに変わっていくのか。
それが将棋の内容や結果にどう影響するのかを、身をもって調べてみたい。

もし努力を続けることで「脳の働きは維持できる」と証明できれば、それで十分満足だ。
結果がどうであれ、自分の目でその変化を確かめることこそが、今の将棋の目的になっている。
途中で大きな病にも見舞われたが、それが立ち止まる理由にはならない。
むしろ、病を抱えながらでも盤に向かえることに感謝し、前へ進むこと自体が生きる力になると思っている。


二十歳の頃――寝ても覚めても将棋だった

自分が最も強かったのは、間違いなく二十歳の頃だと思う。
あの頃は本当に将棋に取りつかれていた。
朝から晩まで将棋のことしか頭になく、何よりも将棋が中心だ。
寝ても盤面が浮かび、夢の中にまで出てくる。

最初は都内の将棋道場で4級からスタート。
そこからわずか一年足らずで四段に昇段した。
若さと情熱だけで突っ走っていた時代だった。
高田馬場の将棋道場で開かれた大会では、第一期新宿王将の称号を手にした。
あの時の感激は忘れない。


升田幸三に憧れて――「升田式石田流」にのめり込む

その頃の私は、升田幸三に強く影響を受けていた。
彼の著書『升田式石田流』を何度も読み返し、内容をほぼ暗記するほど頭に叩き込んだ。
升田の「自分流を貫く姿勢」に惚れ込んでいたのだ。

当時、升田が名人戦で大山名人に挑戦し、
石田流で真っ向勝負を挑んだシリーズを雑誌や新聞で夢中になって追った。
結果は3勝4敗で惜しくも敗れたが、升田の堂々とした戦いぶりは忘れられない。
その姿を見て、「将棋で自分を表現する」とはこういうことなのだと学んだ。

今でも私の得意戦法は石田流三間飛車だ。
それは単なる戦法の選択ではなく、
升田の考え方――「自分の信念を盤上で貫く」という生き方そのものが、
私の将棋観の根っこに残っている。

“升田幸三元名人に関する興味深いエピソード”

“たどり来て未だ山麓”


道場で鍛えた昔とネットで指す今

あの頃はネット将棋なんてなかった。
将棋を指したければ道場に通うしかなく、
盤を挟んで向かい合い、如何にして勝つかを考えるのが日常だった。
その緊張感と集中力が、棋力を引き上げてくれたと思う。

一方で今は、スマホ一つで世界中の相手と対局できる便利な時代になった。
だが、便利になった分、中毒性も強い
「もう一局だけ」と思って気づけば何時間も経っている。
強くなるというより、ただ“対局を消費している”感覚になることもある。

将棋倶楽部24では最高レート2000点を超えて四段に、
将棋ウォーズでは三段から四段を目指して**達成率80%**まで行ったが、
10分切れ負けで何度も時間切れ負けを喫した。
内容では勝っていても、タイムアップで落とす――その悔しさは残る。

こうした経験から、今ではネット将棋からは遠ざかっている。どうしても指したくなった場合には、ネット将棋は1日2時間以内と決めている。
それ以上は時間の無駄になると思っている。
目的は「脳のトレーニングと棋力の向上」であり、
数をこなすより中身を深めることを意識している。


将棋ソフトを師として鍛える

現在は、AI将棋ソフトを相手にした訓練が中心だ。
私のパソコンには「水匠5」「エルモ」「ドルフィン」「ukamuse」「技巧2」「KPS将棋」などの強力なフリーソフトが入っている。           以前は最強の「水匠5」と飛車落ちで指していたが、まったく歯が立たなかった。そこで一段階レベルを下げ、「技巧2」との飛車落ちでトレーニングを続けている。AIは容赦がない。読みの深さも正確さも桁違いだ。
だが、だからこそ得るものが多い。
少しずつではあるが、読みの精度が上がってきた実感がある。
これを続けていけば、きっと結果は出る。
そして、力がついたと感じたときには、再び将棋ウォーズで四段昇段に挑戦するつもりだ。


病にも負けず、前に進む

これまでの人生で、大病にも何度か見舞われた。
しかし、だからこそわかる。
「今、こうして将棋を指せること自体がありがたい」ということを。

病を理由にあきらめるのは簡単だ。
だが、私にとって将棋は「生きるリハビリ」であり「思考の実験」でもある。
脳の働きを保ち、集中力を取り戻し、気持ちを前に向ける。
それができるのが将棋だと思っている。


最後に――脳と将棋の関係を、この身で確かめたい

将棋は、もう趣味ではない。
私にとっては生き方の一部であり、実験でもある。
年齢とともに脳がどう変化するか、
そして努力がどこまでその変化を食い止められるか――。
それを、将棋を通して確かめてみたい。

結果がどうであれ、やる価値はある。
20歳の頃のように燃え上がることはもう難しいかもしれない。
それでも、盤に向かうたびに心が整い、頭が冴える。
それを感じられる限り、私は将棋を続ける。

「今が一番強い」と言える日を信じて――。
これからも、前を向いて盤に向かっていく。

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